2020年6月25日木曜日

雨の日がいい

もう10年以上前になるが、初めて仕事場を借りた。たぶん次男が中学の頃。

3人の子が小さかったときは、ほうっておいても死なないくらいに、早く大きくなってほしいと思っていたけれど、いざ全員が中学以上になると、長期休暇は地獄だった。
部活の都合によって、出かける時間はまちまち、帰る時間もまちまち、お昼の時間もまちまち、「おなかすいた」「わたしのxx知らない?」「xx食べていい?」「xxに行ってもいい?」「明日xxがいるんだけど」「えー、オレもう出かけるんだけど(昼ごはんできてないのか、ということ)」などなど、その度に集中が途切れて、ようやく集中したと思うと、また声がかかる。
ほっといてくれと思うけれど、だれかが出かけるときと、戻ってくるときは、やっぱり「行ってらっしゃい」「おかえり」と声をかけたくて、その前後はそわそわしてしまう。
しかも、出かける時間、ごはんの要不要、帰宅時間など、カレンダーにメモしておいてというのに、だれも書いてくれず、「昨日、言ったじゃん」と言われても、ぜんぜん覚えられない。
そっちは1対1のつもりでも、こっちは1対4(家人もいる)なんだから、いつ言われたかすら覚えていない。

まいったなあと思っていたとき、うちから自転車で10分ほどのところに住んでいた友人が引っ越すことになった。前に、「いいね」と、私が言ったのをおぼえていてくれて、「借りるなら、大家さんに話してあげるよ」と言ってくれ、トントン拍子で話が決まった。
家賃が4万円という破格の2K。

借りるつもりで、もう一度見せてもらいにいった日、友人が言った。
「雨の日がいいのよね。静かで」
へえーと思った。
「日当たりがいい」とか「風通しがいい」とかじゃなくて、「雨の日がいい」というのが新鮮だった。
実際、雨の日は、自転車に乗れず、行き来がたいへんだったけれど、築40年の団地のような作りの5階建マンションの1階にあったその部屋は、窓をあけると戸建の隣家との間に狭い庭があって、そこにキンカンの木が立っていて、雨の日は、しとしとと雨の音だけが聞こえた。

今朝、目が覚めたとき雨音を聞こえて、ふと、「雨の日がいいのよね」と言っていた友人の声と、10数年前、初めて持った自分のスペースを思い出した。
あそこで思い切って仕事場を借りなかったら、私は息が詰まっていただろう。
すごく貴重な空間だった。

今は一人で、誰ともしゃべることなく1日がすぎることも多く、あの頃のにぎやかさが、ちょっとだけ懐かしい。

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