2022年11月22日火曜日

小学館世界J文学館



小学館世界J文学館がいよいよ本日発売になりました。1冊の本を買って、ユーザー登録すると、説明ページのQRコードから125冊の世界の児童文学を読めるという新しい形の本。

この形態については賛否両論あるでしょうが、100周年の記念出版で小学館が子どもの読者向けに、ここまで大掛かりな児童書を企画してくださったことは、すごいことです。
そして、スペイン語翻訳者としては、これまでどんなにがんばっても翻訳出版できなかった作品を収録していただけたことが、何より大きな収穫でした。

スペイン語圏で収録されたのは、次の3点です(タイトルの50音順)。

ベルナルド・アチャガ『ショラのぼうけん』(宇野和美訳)
フアン・ラモン・ヒメネス『プラテーロとぼく』(宇野和美訳)
ホセ・マリア・メリーノ『夢の黄金』(小原京子訳)


『ショラのぼうけん』は、『アコーディオン弾きの息子』のアチャガの児童文学。もとはバスク語なので、金子奈美さんに翻訳していただきたかったのですが、残念ながらかなわず、私がスペイン語から訳すことになりました。


バスク語版も、スペイン語版も、幼年童話として4冊で出版されています。4冊のうち、何冊かでも、と思っていたら、4冊全部を『ショラのぼうけん』として収録していただけたのは、めでたいことでした。
スペインでは6,7歳向けとして出ていますが、根底には「自由な精神」が貫かれていて、楽しいけれども、なかなか骨太なお話になっています。アチャガとよくタッグを組んでいる、やはりバスク出身のミケル・バルベルデの絵が最高です。
ぜひぜひかわいがってください。

『夢の黄金』は、1990年代にスペインで中高校生の世代に広く読まれたメリーノの3部作の第1部。スペイン人の新大陸の征服を背景にした、メスティーソ(スペインと先住民の混血)の少年の冒険物語です。

翻訳への思いを断ち切れずに、通信添削の課題として長く使ってきた本なので、今回小原京子さんの訳で収録されることになって、とてもうれしいです。
「スペインの新大陸の植民地化」というフレーズだけではわからない、さまざまな歴史の真実が見えてくる傑作です。フェミニズム的な視点でのおもしろさもあります。

『プラテーロとぼく』は、言わずと知れた名作の新訳です。
作品のあとがきに、あれこれ書いたのですが、これについては、ここではとても書ききれないのであらためて。

『プラテーロとぼく』の翻訳にあたって全面的に協力してくださったスペイン人の作家エリアセル・カンシーノさんが、お手元に本を届けられないことをとても残念がっていらっしゃるので、気の早い話ですが、紙の本でもいつか出してもらえるよう、心から願っています(と、ここでちょっとアピール……)。

ラテンアメリカの作品が入らなかったのだけは残念です。
とはいえ、英語以外の言語の児童文学としては、この本だから読者に届けることができたという作品がほかにもいろいろありそうで、読むのが楽しみです。

手にとっていただけたらうれしいです。