2019年3月27日水曜日

Los animales eléctricos / でんきどうぶつ



タイトル Los animales eléctricos / でんきどうぶつ
絵 コクマイ トヨヒコ
文 マリア・ホセ・フェラーダ
訳 宇野和美
出版社 A buen paso
出版年 2019年1月

縁あって翻訳を担当した、2ヶ国語絵本がスペインで刊行になりました。
元はと言えば、2年前のボローニャ絵本原画展で、審査員を務めたA buen paso の編集者アリアンナ・スクィローニさんが、コクマイさんのコラージュにすっかり夢中になったこと。ボローニャ展の審査員のビデオでも、彼女はこの絵のことを語り、本にしたいと公言しました。

どんな絵本にするのかなと思っていたら、「これは自分にとって、すごく特別な本だ。2カ国語で出したいから、翻訳をしてくれるか」と、その後アリアンナから連絡が来ました。A buen paso は、アリアンナの一人出版社です。アリアンナとは、何度かブックフェアなどで会ったり、本を仕入れたりするうちに、互いの仕事に敬意をはらいあう間柄になりました。

そして、昨年の夏、コクマイさんの絵とともに、チリの詩人で作家のフェラーダさんが書いた詩が送られてきたのです。
さて、そこからが普通の絵本翻訳プラスアルファの、珍しい体験になりました。

まずは翻訳ですが、白黒のデザイン的な動物の絵本なので、てっきり大人向けかと思って訳したのですが、あとで確認すると、5、6歳の子どもに読んでほしいとのこと。
そこで、もう一度、小さな子どもでもわかるように全体の言葉や表現を見直し、訳稿を仕上げました。

その時点で、私が心配だったのは、スペインのデザイナーにふりがなをうまくふれるだろうかということ。アリアンナに、日本語の絵本には「ふりがな」というのがあってね、と言って、見本にいくつかの絵本の画像を送って説明をしました。

その後、「文字の上につけるというちっちゃい文字は、こんな感じでよいか」と、デザイナーの割付見本のようなもの数ページが届いたのが12月。

幸い、ふりがなはうまく入っていました。が、その時ひっかかったのはフォントでした。和文に、太明のような書体が使われていたのです。海外で日本語が出てくるときに、なぜかよく見かける書体です。でも、欧文はサンセリフの書体なのに、どう見てもへんです。そこで、「和文も、いろんな書体があるはずだから、欧文に合わせて、太さが均一な書体にして」と、書体見本を送りました。

そして、12月初旬に、全体を割付をしたPDFが届き、私もはじめて全体像を見たのです。
白黒のイラストの対面ページに色を組み合わせたページ構成。
「こう来たか!」と、うなりました。

でも、スペイン語と日本語を照らしあわせながら、じっくり見ていくと、語順や改行、文字づかいなど、手を入れたい箇所がちょこちょこと出てきました。
それに、語間や行間のスペースも、欧文がベースになっているので手直しが必要でした。日本の文字の並べ方の基本がないのだから無理もありません。「、」は、この1文字分の四角のマスの、このへんに打って、「、」がないときも、語間のアキは四角のマスの大きさになど、すべて説明しました。

翻訳を渡したときに、イラストと合体したところで、もう一度文章に手を入れさせてと言っておいてよかった、と思ったのですが、そこでハタと気付いたのは、「普通に赤字を入れてもだめだ」ということ。アリアンナは日本語がわからないので、1文字ひょいと、加える指示を手書きで書いてもだめなわけです。
どうしたらわかるのだろうと考えた末、PDFをプリントアウトしたものにマーカーをひいて、ここはこれ、そこはそれにさしかえて、というふうに、すべてさしかえで指示を入れていきました。
実際はさほど大量の赤字ではなかったのですが、ちょっとしたスペースの調整でも、大げさに見えるので、受け取ったアリアンナは「こんなに修正するの?!」とショックだったようです。
「どうしてか、どこが違っているのかよくわからないけれど、直すわ」と、ふんばってくれました。

最初、表紙には和文は入っていなかったのですが、書名、著者名は日本語でもいれてほしいと頼んで、今の表紙デザインになったのはよかったなと思います。
そんなこんなで、できあがったのがこの本です。

コクマイさんの絵は、新聞の切り抜きのコラージュからできているそうです。その質感が出るように、絵本には、風合いのあるマットな紙が使われていますが、アリアンナによれば、「実物はずっとずっとすばらしい」そうです。

今年のボローニャブックフェアで、コクマイさんは、アリアンナとこの本のプレゼンテーションをし、子ども向けのワークショップをするとのこと。
日本から応援しています!

2019年3月13日水曜日

絵本『おにいちゃんとぼく』2019年2月刊


『おにいちゃんとぼく』
文:ローレンス・シメル
絵:フアン・カミーロ・マヨルガ
光村教育図書
32ページ
いいでしょ、ぼく!
いい友だちがいるし、
すごいおにいちゃんが

いるんだもん。
米国出身でマドリード在住の作家と、コロンビアの若手イラストレーターのよる絵本を翻訳しました。

盲目のお兄ちゃんと弟のお話ですが、お兄ちゃんは目が見えないと、文章ではひとことも言っていないのが、この絵本のおもしろさにつながっています。
ぼくのうちだと、なんでも置き場がきまってる。
どこにあるか、おにいちゃんがわかるように、
使いおわったらすぐ、
もとの場所にもどさなくちゃいけない。
という、3つめの見開きにある文章を読んだとき、読者は、(なんだか、めんどくさいお兄ちゃんだな)と思うかもしれません。
でも、お兄ちゃんが暗闇のなかで、「本のページの点てんを指でなぞる」というところまでくると事情がわかり、お兄ちゃんだけ犬をもらえたことや、お兄ちゃんは記憶力がよくて階段の段数もおぼえていることを、なるほどと思うのです。

目の不自由なお兄ちゃんとの毎日が、「ぼく」にとってごく普通の日常であることが、軽やかな明るい絵とともに伝わってきます。

はじめて読んだときから、すごく気に入った作品でした。シメルの文章もよかったし、マヨルガの絵もとても感じがよく。マヨルガは、今注目されているコロンビアの若手イラストレーターのひとりです。幸い、わりあい順調に出版が決まりました。

でも、制作途中で仰天することがありました。
翻訳は、シメルからもらったPDFで進めていたのですが、デザインに入った段階で、ようやく届いた原書を開いてみると、まんなかあたりの黒い見開きページに、なんと点字が入っていたのです!

編集のSさんがあわてて先方に問いあわせ、点字の内容を教えてもらいました。
大ざっぱすぎると思いませんか? 文章でデリケートなところを見せるシメルが、こういうところはやけに鷹揚で、「点字が入っているなら、先に言ってよ!」と、2月にマドリードで会ったときに言ったら、「PDFじゃわからなかったね」と、笑っていました。くーっ!
結局、点字で入っていた文字は、本文とは書体を変えた灰色の文字で、その黒いページの右側に入れてもらいました。

装丁は、『マルコとパパ』でお世話になった鳥井和昌さん。鳥井さんのスペイン語の先生はコロンビアの方だそうで、鳥井さんのスペイン語&ラテンアメリカ愛の深さに、またしても助けられました。
ありがとうございました!

ローレンス・シメルとは『パパのところへ』(岩波書店)以来のおつきあいです。
外国に出稼ぎに行っているお父さんのもとにお母さんと行くことになった女の子の不安や揺れる思いが描かれた、こちらも胸にしみる絵本です。


『おにいちゃんとぼく』の原書¡Qué suerte tengo! は、コロンビアのRey Naranjo の刊行。Rey Naranjoは、グラフィックノベルでも注目の出版社で、ガルシア=マルケス、ルルフォ、ボルヘスの伝記コミックも出しています。
(ボルヘスの伝記については、松本健二さんがブログでもご紹介しています。こちら。)
出版社のHPを開くと「私たちは独立系出版社です。本の力と、読者の力を信じています」という文字が出てきます。志のある若い出版社。いいなあ、コロンビア。

図書館や書店で手にとっていただけたらうれしいです。