2016年7月9日土曜日

ブラティスラヴァ世界絵本原画展 絵本の50年これまでとこれから

カタログと、金のりんご賞受賞のスペイン人作家の絵本2点。

 さいたま市のうらわ美術館で、今日から「BIB50 周年 ブラティスラヴァ世界絵本原画展 絵本の50年これまでとこれから」が始まりました。
 うらわの展示は8月31日まで、そのあとは次の4館を巡回します。

 2016年10月29日~12月11日 岩手県立美術館
 2017年1月4日~2月26日 千葉市美術館
 2017年4月8日~5月28日 足利市立美術館
 2017年7月8日~8月27日 平塚市美術館

 展示は2部構成で、1部は「BIB歴代参加作品でたどる〈日本の絵本50年〉」と題して、1965年から2013年までの参加作品の原画約30タイトルが展示されています。赤羽末吉、長新太、瀬川康男、スズキコージなど、絵本好きの方なら、「ああ、読んだ、読んだ」という作品が必ず入っているはず。
 今日はオープニングに仲町小学校の子どもたちが何人か招かれていましたが、多くの子が原画よりも、子どもの目線の高さにある展示作品の絵本にとびついて、「おれ、これ幼稚園のとき見た!」などと言っているのがほほえましかったです。
 私が「わぁ」と思ったのは、村上康成『ピンク! パール!』。1991年に金牌をとっているんですね。ちょうど会社を辞める直前に、隣の児童書編集部で出来上がりを見た絵本です。原画に、セロテープのあとがあって、編集者の息遣いを感じるようでした。
 
取材の腕章をもらったので、場内のようすも少しだけ。

 第2部は「BIB2015参加作品にみる〈絵本の今とこれから〉」。今年の日本の参加作品15点と、入選作が並んでいます。
 金のりんご賞に、スペインのハビエル・サバラとエレナ・オドリオソラが入賞したので、解説を書くところで私も関わりました。エレナ・オドリオソラは、これまで日本で出ている絵本5点では名字がオドリオゾーラとなっているのですが、今回、オドリオソラとしてもらいました。ゾーラじゃないから、ずっと気になっていたのです。
 彼女は、今、切り絵に凝っているのか、この作品は描いた絵を切りとって舞台にしたものを、写真どりした作品です。
 
 グランプリは、ローラ・カーリン。日本では、『やくそく』(ニコラ・デイビス文/さくまゆみこ訳/BL出版)などがでている作家です。図録の表紙の洗濯バサミ人形は、彼女の作品だとのこと。
 そのほか、さまざまな試みのある作品が並んでいて、とても見ごたえがありました。
 出たところには、人気投票のコーナーがあります。気に入った絵にシールを貼って帰りましょう。
 

 
 浦和は高校の3年間通った町ですが、西口方面はひさびさで、ぜんぜん知らない町のようでした。でも、うらわ美術館のすぐ左には、高校時代にときどき寄り道した本屋さん、須原屋が今もありました。ここだけタイムスリップしたような感じがしました。


 

2016年7月6日水曜日

『アウシュヴィッツの図書係』




『アウシュヴィッツの図書係』
アントニオ・G・イトゥルベ著
小原京子訳
集英社
2016.7.5刊行


絶望にさす希望の光、それはわずか8冊の本――
強制収容所を生き抜いた少女の強さを描いた、実話に基づく感動作。
(出版社HPより)


 アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』(白水社)の中に、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所の三十一号棟に秘密の図書館があり、そこにあった八冊の本の管理は一人の女の子にまかされていた、というくだりがあります。
 スペインの作家イトゥルベは、この文章に目をとめ、その少女のことを調べていくうちに運命の導きのように現在イスラエルで暮らす当時の図書係と出会い、この本を書きあげました(このあたりのことは、本書巻末の「著者あとがき」にあります)。

 実は私も翻訳協力という形でこの本の誕生にかかわってきたので、こうして本になり喜びもひとしおです。
「感涙」とか「感動」という語がオビに躍っていますが(笑)、人が生きるために、「本」がどれほど大きな力を持っているかを見せてくれる意欲作です。
 ぼろぼろになった8冊の図書館の蔵書ばかりか、かつて読んだ本の記憶も、絶望的な毎日の中でディタを支えます。『ニルスのふしぎな旅』などの物語をおぼえていて語ってくれる人、つまり「生きた本」のエピソードも、物語の力を感じさせてくれます。

 もうひとつ、私がとてもおもしろいと思ったのは、ジャーナリストの著者らしく、アウシュヴィッツで生きていたさまざまな人々の姿を物語にもりこんでいるところです。視察団が来たとき、アウシュヴィッツは普通の収容所だと見せかけるために作られた家族収容所を中心に、さまざまな立場の人の姿が描かれています。歴史書ではなくこうしてフィクションで語られることで、歴史的事実として知っていた出来事を読者は改めて心で感じることができるでしょう。

 本好きで、うらやましいほどスペイン語の実力がある小原京子さんは、フィクションの翻訳はこれが初めてですが、著者とも連絡をとりあって、物語の魅力をたっぷりと引き出しています。これからの活躍がとても楽しみです。

 びっくりしたことに、主人公ディタは、野村路子さんが『テレジン収容所の小さな画家たち詩人たち』(ルック)で紹介しているディタ・クラウスだというのが調べていくうちにわかりました。アウシュヴィッツに送られる前、テレジンで彼女が描いた絵やインタビューがその本におさめられています。

 もともとは、スペイン大使館商務部が5年ほど前から行っているニュースパニッシュブックスという、スペインの新刊の版権を日本の出版市場に売り込もうというプロジェクトで2013年に紹介されていた1冊です。その紹介文を集英社の編集者が目にとめ、翻訳出版となりました。
 『青春と読書』7月号46ページ、豊﨑由美さんの紹介文『この世の地獄で、生きる力を与えた「本」』を読めば、本好きな人たちは読まずにいられなくなることうけあい。
 本屋さんで、図書館で、手にとっていただけたらうれしいです。 
 


2016年7月4日月曜日

講演会「『ちっちゃいさん』が生まれるまで ―翻訳と子育てとー」

 イソール作『ちっちゃいさん』(講談社)刊行のあとお声がけいただき、下記のとおり、2016年7月16日午後2時から千葉市でお話することになりました。

 普段翻訳するとき母親としての自分は顔を出さないのですが、『ちっちゃいさん』は例外的に、子育ての経験をめいっぱい使って訳した本でした。

 たまたま3人の子を授かり育ててきたので、20年あまり、子育てとがっぷり四つに組んできたわけですが、若い頃の私は、子どもを欲しいと思ったことは一度もありませんでした。どちらかというと苦手なくらいで、「赤ちゃんはまだ?」と聞かれると、「がんばっています」と言ってお茶を濁していたのでした。
 それが変わったのは甥っ子を見たときです。「へえ、赤ん坊っておもしろいな」と初めて思いました。そして、自分の子がこの世に出てきたときには、「こんなに大事なものが人生にできてしまってどうしよう」と思うくらい、とにかく我が子はかわいくてたまりませんでした。まさか、自分がそんなふうになるとは思ってもみないことでした。今では赤ん坊を見るとついつい近づいてしまう、おせっかいなおばさんと化しています。人生というのはわからないものです。
 
 会留府の阿部さんから、スペインと日本の子育ての違いなども触れてほしいと言われています。訳文をどんなふうにねりあげていったか、具体的にどこかの部分をとりあげながら、お話したいと思っています。
 毎日新聞の千葉地方版に7月1日に掲載された告知記事はこちらです。
 お近くのみなさま、よろしければお運びください。