2015年11月3日火曜日

だいじょうぶカバくん




タイトル:だいじょうぶカバくん
原題:El señor H
作:ダニエル・ネスケンス Daniel Nesquens
絵:ルシアーノ・ロサノ Luciano Lozano
訳:宇野和美
装幀・本文レイアウト:坂川栄治+坂川朱音(坂川事務所)
出版社:講談社
初版:2015年2月

学校の遠足で動物園の行ったロサーナは、かばの檻の前でふいに話しかけられます。
「おーい、名前はわからないけど、そこの女の子! ぼくをここから出してくれませんか?」
檻を出たカバくんを見ても、だれも慌てもせず、いぶかしみもせず、ちょっとずれたところでカバくんに注意をするだけ。カバくんはゆうゆうと町をめぐり、子どもと噴水で遊び、ピザを12枚とチョコレートのデザートを18人前、只食いし・・・。

この本と出会ったのはICEX / スペイン大使館商務部が主催しているNew Spanish Books 、確か2011年の秋の回でした。絵がちょっと堀内誠一さんふうで、かわいらしい本という印象しかありませんでしたが、読んでみて、大好きになりました。
カバくんを見ても、だれもふしぎがらないのが、何と言ってもおかしいのです。
最後のオープンエンドに、カバくん、動物園に戻らなくていいの?と思いはするのですが、そのほのぼのとした、とぼけたストーリーから、「人目を気にしてばかりいなくていいよ。好きにしたらいいんだよ」と、言われているような気がしました。
これぞユーモアの力ではないでしょうか。

檻から出してくれと頼まれて、ロサーナが手伝っていいものかどうか、迷っているとき、カバくんは言います。

「そんなになやむことありませんよ。だれも気づきはしませんって。みんな人のことなんかかまっちゃいないんですから。じつに身勝手なものです。現代の病ですね」

「身勝手」とは言っていますが、私はここにポジティブなメッセージを感じました。人の目ばかり気にして、みんなと同じじゃなきゃと縮こまっている子どもたちに読んでほしいな、だって、だいじょうぶだからと。
正義感をふりかざすことを、皮肉っているようでもあります。
友だちからいじめられないか、大人から叱られないかと、いつもビクビクしていた子ども時代の自分にも、読ませてやりたい本です。

「だいじょうぶ、とカバくんは思っていました。
チャンスはいつかめぐってきます。
きっとね。」

という終わりの文章も、すてきです。
このユーモア感覚に触れて、「スペインのユーモアってこんなふうなのね」と思ったら大間違いです。スペインの批評家たちも、「ネスケンスの独特のユーモアセンス」という言葉をよく口にするからです。
ユーモアというより、ナンセンスと言ったほうがいいでしょうか。

物語が進むうちに、カバくんが背広を着るのがおかしいという声もありますが、よく見ると、絵の中にそれらしい場面があります。
「だって買えないのに」とも言えますが、このカバくんなら試着したら、「あなたにぴったりですね。じゃあ、どうぞ」なんて、もらったのかもしれないと思えてきませんか?

小学中級からとしていますが、小学校低学年からでも楽しめるかなと思います。
せせこましい世の中で、のんびり楽しんでもらえるとうれしいです。

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