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2020年7月23日木曜日

Mar dulce スケッチ(6) ディエゴの原画を見る

1月末にモンテビデオを訪問したとき、スペイン文化センターというスペイン政府の施設でちょうど、ウルグアイの作家マリオ・レブレロ(1940-2004)の展覧会が開かれていました。
そこにディエゴ・ビアンキさんの絵本Cuentos cansados の原画が展示されているときいて、実はモンテビデオの街に出て一番に連れていってもらったのがここでした。



ディエゴ(と、呼んでしまおう!)は、 昨年6月末、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展のときに板橋区立美術館で開催された夏のアトリエの講師として来日したアルゼンチンのイラストレーターです。成田空港へのお迎えから、前日の打ち合わせ、5日間のワークショップ、翌日の講演まで、通訳としてご一緒させてもらい、濃密な1週間を過ごしました。私にとっては、またとても大きな出会いでした(書ききれないので、詳細はここでは割愛しますが)。
ディエゴ・ビアンキについて詳しく知りたい方は、雑誌『イラストレーション』No.224 2019年12月号をご覧ください。来日のときのインタビューと、彼の作品が紹介されています。

このCuentos Cansadosは、息子ニコラスにねだられて、くたびれた「わたし」が、くたびれたお話をしてやるという、ちょっととぼけた味わいのあるお話です。冒頭部分を紹介しましょう。
ニコラス:ねえ、おはなしして。 
わたし:だめだ。くたびれてるんだ。 
ニコラス:くたびれててもいいから、おはなしして。 
わたし:しょうがないな。でも、くたびれたおはなしになるぞ。 
ニコラス:うん、いいよ。くたびれたおはなしでいい。 
わたし:よし。(ふぁー)むかしむかし……(ふぁー)……あるところに、とてもくたびれた男の人がおりました。とても、とてもくたびれていたので、ねるのに、家に帰ることもできなくて……(ふぁー)……もっていたかさを開いて、じめんの上にさかさまにおいて、かさの中にねころんでねむりました。ぐうぐう、ぐうぐうねむるうちに、雨がふりだしました。ざあざあ、ざあざあ、雨がふって、しまいにかさいっぱいに雨がたまって、男の人はおぼれそうになって、「おぼれるー、たすけてくれー!」とさけびながら、目をさましました。男の人は起き上がると、雨がふっているのを見て、雨をよけようとかさをつかみましたが、かさの中にはいっぱいに雨がたまっていたので、ザバーッと雨をかぶって、ますますずぶぬれになってしまいましたとさ。おしまい。 
ニコラス:もうひとつ。
(2ページより)
ディエゴはこの親子を、鳥の姿で描き、テクストの空想をさらにおし拡げるような絵を繰りだしていきます。テクストと絵のどちらも読む楽しさがたっぷりある、豊かな絵本です。
原画は、本で見るよりも色鮮やかで、1点1点見入ってしまう美しさでした。

この絵本を作るとき、ディエゴはレブレロの短編を読みこんで研究したと言っていたので、「訳したいけど、まだ研究不足」と私が言うと、「そこまでしなくていいよ」と言っていましたが。この絵本、日本でも紹介したいな。

この絵本の制作のようすのビデオはこちら
この展覧会のときに、この絵本についてディエゴがラジオ番組で語ったものはこちら。(スペイン語)
また、まだ少し先ですが、英語版が出るそうです。予告はこちら

レブレロの展示は、レブレロのめがねがあったり、昔の雑誌のコラージュがあったり、インスタレーションがあったり立体的で、とてもおもしろいものでした。

スペイン文化センターは、昔は金物屋だった建物のようです。
スペインは、スペイン語圏以外の国にはセルバンテス文化センターを起き(日本にもあります)、スペイン語圏の国には、スペイン文化センターを置いているとのこと。


この展覧会が見られたのは、ほんとうにラッキーでした。

2020年7月7日火曜日

Mar dulce スケッチ(5) モンテビデオの本屋さん

スペイン語圏の本屋に入ったとき、まず最初に考えるのは、「日本でも手に入る本」か「日本では手に入らない本」かということだ。
スペインに某密林書店が進出してから、日本にいながらにして手に入るスペイン語の作品は驚くほど多くなった。自分が若い頃のことを思うと、(当たり前だが)隔世の感がある。

日本で手に入る本なら、わざわざ旅先で買って、重さを気にしながら持ち帰ることはない。買うなら、日本で手に入らない本がいい。
中南米のスペイン語圏の書店で並んでいる本は、オリジナル言語がスペイン語でも、もともと出版されたのが、その国ではないことが多い。スペインで作られた本だと密林で買えることが多く、そういう本を買ってしまうと、あとでがっくりする。

そんなわけで、モンテビデオで、一番充実した書店と言って連れていったもらったMás Puro Verso でも、まずは日本では手に入らない文学作品を探した。

モンテビデオの書店 Más puro verso



しばらく棚を見ていると、その本屋が、ジャンルや作家の出身国について、どのくらい意識しているか、見えてくる。文学の棚が、スペイン語(その国、それ以外のスペイン語圏)と海外に分かれていると嬉しくなる。でも、分かれていなくても、テーマやジャンルで刺激的な棚になっていることもあって、へーっと思うことがある。

棚を見ていたら、「読んでくれ」と呼びかけてくる本があるものだ、という知人がいる。あやかりたいが、私はいっこうにそういう境地に達しない。だから、本屋さんに入ってしばらく見てから、店員さんにおすすめの本を教えてもらうのが好きだ。そうすれば、思わぬ本に出会う楽しみがある。

いきなり「おもしろい本をすすめてください?」と聞いたのでは向こうも困るだろうから、もうちょっと絞り込む。この本屋さんでは、「長く読み継がれているウルグアイの児童文学作品」と「ウルグアイの現代の女性作家の作品」を、紹介してもらった。本を見せてもらいながら、スペインだとこういう作品が好きなんだけどとか、この作家のこれがおもしろかったとか、このジャンルは苦手だとか、自分の好みを話していくと、それならこれはどう?などと、話題が広がっていく。

たとえば、この書店では、こんな本や、

ウルグアイ児童文学の古典的作品。

こんな本を教えてもらった。
1975年生まれの女性作家の作品。ロードムービーのよう。

モンテビデオに行く機会があったら、ぜひお立ち寄りください。

Más puro verso 
Peatonal Sarandí 675




2020年7月3日金曜日

Mar dulce スケッチ(4) モンテビデオのボローニャ展入選作家たち

モンテビデオに行ったら、ボローニャ展の入選作家に会いたいなと思っていました。

ここ何年か、日本で開催されるイタリア・ボローニャ国際絵本原画展の図録で、スペイン語圏の入選者たちの名前やタイトル翻訳の仕事をいただいていて、どうしてもわからないことがあると、作家ご本人とやりとりすることがありました。

2019年の、セシこと、マリア・セシリア・ロドリゲス・オドーネさんの作品タイトルもそうでした。もらった書類にhomeraとあり、 homero なら「ホメロス」だけれど、homeraはその女性? でも、絵とのつながりがさっぱり見えず、本人に確認したのでした。
すると、homeraではなくて、hornera だったのが判明。horno(かまど)みたいな巣を作る鳥「カマドドリ」のことだったのです。確かに、絵を見ると、鳥と巣が描かれています。シルクスクリーンのシックな色使いの作品です。
https://www.instagram.com/ceciro/
(入選作品は、こちらの2018年10月の投稿に出ています。)

連絡したところ、1月30日に友達の本のプレゼンテーションに行く予定だから、そこに来ないかと誘われました。友人が一緒に行くと言ってくれて、二人で出かけました。
行ってみると、会場は旧市街の共同アトリエとなっている家で、あらゆるところがアート。来ているのもアーティストらしい若い人ばかりで、まったく場違いなところに迷いこんでしまったようでした。

共同アトリエの家の屋上テラス。

壁という壁に絵が




セシさんは、ボローニャ入選者2018年のダニ・シャルフさん、2019年のサブリナ・ペレスさんも呼んでくれていて、なんとダニさんが、第一声、友人の名前を呼んだのでびっくり! そういえば、シャルフという姓の読み方に自信がなかったので、私が友人にたずね、友人がHP経由で本人に確認してくれたということが、一昨年あったのでした。
https://www.instagram.com/danischarf/

また、サブリナさんも、タイトルOut there をどう訳せばよいかわからず、昨年問い合わせをしていました。
https://sabrina-perez.format.com

そんなわけで、地球の反対側で、ボローニャ入選作家の若いアーティストたちとおしゃべりを楽しみました。3人とも、まだ出版経験はないそうですが、サブリナさんは、今とりかかっている本があるとか。昨年のちょうど今頃、板橋区立美術館で出会った夏のアトリエの受講生たちの姿とも重なって、胸が熱くなりました。
セシさんが手がけたという、旧市街に入ってすぐの広場にある壁画を見て家路につきました。

セシさんは、アーティスト・イン・レジデンスがあれば、日本に来たいとのこと。コロナ禍で今はそれどころではなさそうですが、その方面のことをご存知の方、情報をいただけたらうれしいです。

2020年7月1日水曜日

Mar dulce スケッチ(3) パニと2人のぺぺ

昨年、大学の「ヤングアダルト文学講読」の授業でHistorias de la cuchara: cuentos latinoamericanos sobre historia y buen comer(おさじの物語 歴史とご飯についてのラテンアメリカ短編集:María Cristina Aparicio, Norma, 2011)という本を読みました。ラテンアメリカ各国の名物料理と歴史をからませた短編集です。その中の、ウルグアイの短編Empanadas criollasは、エンパナーダを作る男の子のこんなお話でした。

モンテビデオに住む二人の兄弟。兄のパニはデブで運動神経も頭も鈍く、みなからバカにされているが、人あたりがいい。弟のペペはかっこよく、サッカーをやらせればピカ一。最初はサッカーに夢中だったパニだが、自分がぺぺのようではなく、みなの足をひっぱっているのがわかると熱が冷め、日曜日に父親や弟とテレビでサッカーの試合を見るのもやめて、母親のエンパナーダづくりを手伝うようになる。パニが近所で上手に注文をとるようになると、母のエンパナーダ屋は大繁盛。父親も会社をやめて、エンパナーダ作りを手伝うようになり、一家の暮らし向きもよくなる。
一方、サッカーが得意だった弟ぺぺは、勉強もできて、医学部に進むが、社会運動にかかわるようになる。トゥパマロスの活動に参加して、警察から追われ、身を潜めて暮らすようになる。
そんなある日、ぺぺがパニに、肉を手に入れたので、長持ちさせるためにチョリソを作りたい、作り方を調べて教えてくれと頼んでくる。パニはトゥパマロスの隠れ家に教えに行くが、それでもまだ肉は余っている。パニは、次はエンパナーダを教えてやると約束する。ところが、エンパナーダを作っているところで警察の手入れがあり、パニは捕まってしまう。
パニは拷問を受け、仲間の居所をはけと言われるが、何も言わない。拷問でほとんど死にかけたとき、やってきた警官が、「なんだパニじゃないか」と言う。「こいつがトゥパマロスのはずがない。エンパナーダを作るしか能のないうすのろだ」と。じゃあ、それを証明しろというので、パニは震えながら、警官たちの前でエンパナーダを作り、釈放される。その後、エンパナーダ屋は繁盛し、パニは奥さんとともに6店舗に店を広げる。
ぺぺはその後警察につかまり、15年投獄されたあと、やせ細って帰宅する。
ぺぺはパニに初めて謝るが、パニは「ぼくは何も知らなかったから、何も言わなかったよ。知ってたって言わなかったけどさ」と答える。兄弟は日曜日に二人そろって、テレビでサッカーの試合を見るようになる。

トゥパマロスというのは、『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ文 汐文社)で知られる、元大統領のホセ・ムヒカさんも属していたグループです。

ムヒカさんも一時収監されていた刑務所、プンタ・カレタス刑務所が、今はショッピングセンターになっているということで、モンテビデオに着いたその日の午後、友人に連れていってもらいました。



旧刑務所を見て、パニとぺぺの物語を思い出しました。ちなみに、ぺぺというのは、ムヒカさんの愛称です。

そういえば、この物語に出てきたサッカー場センテナリオを、外からだけでも見てくればよかったと後で思いました。授業で「Centenarioはサッカー場ですね」と説明したら、「サッカー場をCentenarioというとは知らなかった」と学生がリアクションペーパーに書いてきて、焦って説明し直しました。説明は難しい。「甲子園」は野球場だけど、野球場は甲子園ではないのであーる。

また、この物語に「チリやアルゼンチンやブラジルの仲間から拷問の仕方を習った政府」と言う表現が出てきましたが、学生にはすぐにはピンとこなかったようでした。こういうのが、面白いんだけどね。

パニは学生に人気で、「パニ、かわいそすぎー」と、みな途中でさんざん気を揉んでいました。
これも、いつか訳したい本のひとつ。

日本でムヒカさんは人気ですが、ウルグアイ在住の知り合いは「理想は高いが、口ばっかりで、結局何もしなかった」と辛口でした。


2020年6月28日日曜日

Mar dulce スケッチ(2)ガレアーノをたずねて

モンテビデオの友人を訪ねることが決まったとき、「どこに行きたい?」と問われ、まずお願いしたのがエドゥアルド・ガレアーノゆかりの地の文学散歩でした。

数年前、『火の記憶』(飯嶋みどり訳、みずず書房)の中のいくつかの創世神話をスペイン語専攻の2年生と読んだことがあります。「何でこうなるの?!」と、学生がなかなかのってこず、苦しかった記憶がありますが、ラテンアメリカの中でのガレアーノの存在感は特別なものがあります。
特別ガレアーノが好きというわけではないのですが、『日々の子どもたち』(久野量一訳、岩波書店)の記憶も新しく、モンテビデオに行くなら行ってみたいというミーハー丸出しで、まずは、ガレアーノが足しげく通ったというCafe Brasileroを目指しました。


ちょうどお昼前だったので、店内のそれほど多くない席はランチのお客さんですでに埋まっていて、残念ながらコーヒーは飲めず。
店内には、写真や新聞の切り抜きが飾られていました。
https://www.cafebrasilero.com.uy
予約すればよかったんですね。

2つめは、ガレアーノが通ったという古本屋Librería Linardi y Risso。


店に入ると、左の壁面いっぱいの本棚に圧倒されます。低い面陳の棚の本は、どうということのない新しい本でしたが、本棚の古い本を1冊1冊見だしたらきりがなさそう。
http://www.linardiyrisso.com/index.html
HPには、ガレアーノを批判したバルガス=リョサの写真は出てくるものの、ガレアーノは見当たりませんが。

モンテビデオの街はヨーロッパ的な印象ですが、いくらか素朴。下は、ガレアーノが歩いたに違いない旧市街のようす。

旧市街のPlaza Matriz(次も)

旧市街のSarandi通り

1月末はいつもはとても暑いそうですが、私がいた間は初夏のように爽やかでした。


2020年6月12日金曜日

Mar Dulce スケッチ(1) 

今年の1月末から2月上旬にかけて、モンテビデオ、ブエノスアイレスを旅しました。2.3月は予定があれこれあったので、そこしかないと思って入れた予定でしたが、今から思うと夢のような夏休みでした。

モンテビデオとブエノスアイレスは、海のように川幅の広いラ・プラタ川に面しています。この川は、別名Mar Dulce(直訳すれば「甘い海」ですが、「真水」agua dulce と同じ意味のdulceか)。なんと美しい名前!
こんな時ですが、Mar Dulce の旅のあれこれを、少しずつつづってみます。

ホテルの前の公園にあったgomeroの木。とにかく大きい!
ブエノスアイレスで泊まったのは、中心街をちょっとはずれた通りのホテル。かの有名な書店Ateneo に、どうにか歩いていけるあたりです。
朝、ホテルから外に出たとき、思わず路上に見入りました。ホテルと道をはさんだところにある公園の角、ゴミのコンテナのとなりにマットレスがあり、ホームレスの女性が寝ていたのです。

「ラテンアメリカが生んだ新世代のホラープリンセス!!!」というオビのついた短編集、マリアナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社)の1つめの短編「汚い子」に、道ばたに三枚積みあげたマットレスで暮らすホームレスの母親と子どもが出てきます。

その後、4日ほど街を歩くあいだに、ほかの通りでも、マットレスのホームレスの姿は何度か見かけました。ブエノスアイレスではよくある光景なのか。夏だったからか。
現実とフィクションが交錯して、「汚い子」がリアルに迫ってきた瞬間でした。

2019年4月25日木曜日

バスクの旅(3) サン・セバスティアンその2

サン・セバスティアンについても、書店情報、図書館情報を金子奈美さんにいただきました。ありがとうございます!
最初に行ったのは、Lagun(Urdaneta Kalea, 3)という老舗の本屋さん。夜だったのでうまく撮れず、写真がありませんが、文芸や人文関係など、市内で一番品揃えがよかったのがここでした。黙って長いこと本を選んでいるお客さんの多い、居心地のよいお店でした。

スペイン語が読める方は、こちらの記事を参照してください。

次に行ったのは、Donosti。川から大聖堂方面に向かうロータリーにある小さいお店。ビルバオのCámara と似たような印象です。
店員さんと会話しながら、「じゃあ、今日はこれにしておく」という感じで買っていくお客さんがちらほら。


いちばん好きだった書店はなくなってしまったが、そこの元店員さんが店を構えているという説明を受けて訪ねたのはTabacco Days.
鉄道駅とバスターミナルに面した、昔のタバコ工場を改装して作られたTabakalera という文化センター内の小さなしゃれたセレクトショップです。

Tabacalera の2階から見たところ。Tobacco Days は1階にあります。

文芸の最新刊や、フェミニズム、グラフィックな本など、ほとんどの本が面出しで並んでいます。


『Los animales eléctricos でんきどうぶつ』が、早くも並んでいました。
髪色がピンクの女性の店員さんに、何か勧めてくれないかとたずねてみたら、それまでまったく目をとめたことのなかった、若い作家の小説を教えてくれました。「この出版社、おもしろい本を出しているのよ」とのこと。


たまには大型店も行ってみようと、Fnac にも立ち寄りました。このところ気になっているグラフィックノベルの棚が、マドリードのFnac よりも見やすく並んでいました。Fnacは、フランス系の書店ですが、Salamandraという出版社とともにコミックの賞を主催しているので、力を入れているのか。

図書館も足を運びました。Koldo Mitxelena図書館。大聖堂の裏手です。


気力が尽きて、文学や児童書の蔵書を、1冊1冊見ることはしませんでしたが、開架で多くの本を見られるのはうれしい。ウィークデーの午前でも、館内は結構にぎわっていました。ふらっと立ち寄った雑誌のコーナーで、パラパラと読書雑誌を見ていたら、おもしろい記事を見つけ、コピーできたのは思いがけない幸運でした。
地下は展示スペースになっていて、世界の図書館の展示をしていました。

ちょうどその日の夜、図書館のホールで、Bertrand H. Carpentey という地元の作家のLa gran guerra という作品の音楽つきの朗読会があるのを知り、行ってみました。ピアノ演奏をさしはさんだ、スペイン語の朗読で、二人の兄弟のお話を堪能しました。

サン・セバスティアンに着いてから、以前読んだAntonio Muñoz Molina のEl invierno en Lisboa (評価が高い小説だけれど、男性目線の展開が好みではなかった……)の舞台の1つがサン・セバスティアンだったと思い出しました。出てきた地名のうち「憲法広場La plaza de la constitución」だけ、かろうじて思い出して訪ねてみましたが、駐車場として使われていて、何の風情もありませんでした。モデルになったジャズの店は、どこにあったのか。
旧市街には、興味深いお店がいろいろありましたが。

バスクのおじいさんと言えばベレー帽

種屋さん
老舗の菓子店



1日1万5000歩をこえる町歩きで疲労困憊し、夜は2ユーロのグラスワイン1杯で眠気に襲われ、タパスを1つつまんだだけでホテルに直行した2日間でした。



2019年4月21日日曜日

バスクの旅(2)サン・セバスティアン その1

ビルバオの後、2日間、サン・セバスティアンを満喫しました。

サン・セバスティアンの目玉は、エレナ・オドリオソラと会ったこと。
彼女の絵本はこれまでに『天のおくりもの』『あくびばかりしていたおひめさま』『アリアドネの糸』(いずれも光村教育図書)を訳しています。



前にこのビデオを見て(バスク語)、橋と川を見下ろす場所に住んでいるのだなと思っていましたが、その橋はスリオラ橋だと、今回の旅でわかりました。


「エレナに会うなら、ミケルにも会えばいいのに。友だちのはずだ」と助言してくれたのは、バレンシアの出版社メディアバカのビセンテ・フェレール。ミケルとは、この7月にあかね書房から刊行になるメディアバカの絵本シリーズ「あしたのための本」の2冊目『独裁政治とは?』のイラストレーター、ミケル・カサルです。
そんなわけで、サン・セバスティアンではまず、このお二人に会いました。

作品から、エレナは物静かな人と思いきや、とても早口でおしゃべり。気さくにさまざまなことを話してくれました。


エレナの最近の作品というと、物語を独自に解釈して口絵で展開した『フランケンシュタイン』、


バスクのクリスマスを描いた『エグベリア』、

アナ・マリア・マトゥーテのアカデミア入会スピーチをカードの絵本にした『森のなかで』など、

変わったフォーマットのものが続いていますが、それらはすべて、彼女自身のアイデアだとのこと。
「大きさはこうで、32ページで、みたいなのはいや」とのこと。

でも、ネルーダの『星へのオードOda a una estrella』、コルタサルの『雨粒がつぶれるAplastamiento de las gotas』、アルゼンチンの詩人アルフォンシーナ・ストゥルニの『土曜日Sábado』は、テクストを解釈がすばらしくて、普通の絵本形式だって、どれも彼女にしか描けない境地に達しているというのに! 
大人の絵本として、この3冊、どこかで出してくれないかなあと、ずっと思っています。



「でも、本にすると思ったようにならないの。今の技術なら、なんでもできると思っちゃうんだけど、そうはいかなくて。ここだって、実物の赤はもっと深くてきれいなのに」と、『森のなかで』の印刷の出来栄えは満足していないようす。
『エグベリア』は、とても好き、とのことでした。

「日本でだって、あなたと仕事をしてみたい編集者はいっぱいいますよ」と言ったら、「とても興味がある」とのこと。「だけど、思い切った形式を提案されたら、みんな困ってしまうかも」と言ったら、笑っていました。

ミケル・カサルの絵も、ぜひ7月に新刊絵本で見てください。こちらが原書です。

ミケルは似顔絵がうまく、この本の見返しには、世界の独裁者の似顔絵が並んでいます。会ったときも、だれか人物のことに話が及んで、私がぽかんとしていると、「こんな人だよ」と、さささっと、ノートに顔を描いてくれました。

この本のイラストレーター紹介文からも、ミケルのサン・セバスティアンへの愛を感じますが、夕方6時ごろ別れたときに、「これからの時間は、コンチャ海岸のほうに歩いていくときれいだ」と、道案内をしてくれました。彼がすすめてくれたウルグル山に登れなかったのが心残り。

日暮れのコンチャ海岸


帰国してから、エレナ・オドリオソラが2020年の国際アンデルセン賞、スペインから画家賞に推薦されたというニュースが入りました。今度はどうかな。

サン・セバスティアンの書店と図書館のことは、また次回。


2019年4月16日火曜日

バスクの旅(1)ビルバオ

この2月、はじめてバスクに行ってきました。
会いたい人たちと、移動手段を考えて調整し、結局、東京 → (パリ)→ ビルバオ→サン・セバスティアン→ビトリアという旅程になりました。

仕事か観光かと問われたら、「観光だけなら行かないから、どちらかというと仕事かな?」くらいのスタンスの旅。書店は寄りたいので、バスク語の翻訳家の金子奈美さんから、ビルバオとサン・セバスティアンの書店と図書館のことをいろいろ教えていただきました。ありがとう!

ビルバオでまず最初に向かったのは、Anti Liburudenda。土地勘がつかめず、旧市街をぐるぐる歩きまわり、くたびれ果ててとびこんだこちらのカフェに、




こんな本のコーナーが。だれでも、自分が読んだ本を置いていってもいいし、気にいった本があれば持っていってもいいとのこと。


このカフェで道順を教えてもらい、ようやくAntiに到着。
ANTIの文字が逆さまになっているロゴです。


文学、思想、デザイン、美術、グラフィックノベル、絵本、同人誌など。多くが面だしで並んでいるセレクトショップ。今回の旅で1軒目だったこともあって、じっくりゆっくり見せてもらいました。
下の1枚目の右上のほうには、ちょうど今私が手がけているMujeres y hombres (邦題『女と男のちがいって?』7月刊)も見えています。



2005年開店から14年、だんだんと売り上げは伸びていて、なんとかやっていると店主のお兄さんが言っていました。
オススメの本をたずねたら、Cristina Morales のLectura Fácil (←松本健二さんのブログをどうぞ)やSara Mesaをすすめられました。この2人の女性作家のものは、独立系の店でも大型店でも、どこでも必ずおいてありました。ここならではのものはないかと、なおもたずねたら、ビルバオの旧市街の道のことを書いたPablo Gallo(パブロ・ガリョ)のSiete días en las Siete Calles (シエテ・カリェスでの7日間)という本を勧められ、購入しました。
2018年に旧市街のSiete Calles を訪れた著者が、線画のイラストと文章で綴った本。
これを読んでからビルバオをたずねたら、さらにおもしろかっただろうと思います。


 
 その夕方には、ASTARLOA という古書店へ。
間口はこれだけですが、中は広く、2階もあります。
ここでは、児童書の古書を見せてもらい、『ねずみとおうさま』のコロマ神父のPelusa(ペルーサ)という本を購入。30ユーロ。初版は1912年だけれど、これはたぶん1940年ごろのもの。


50ユーロで、子どもの手書きのメモが挟まっている『ゆかいなセリアCelia, lo que dice』の初版本があって心ひかれましたが、テキストは持っているし……と、あきらめました。
2階には、何百年も前の写本のようなものが、手にとれる場所に並んでいるコーナーも。


入り口の営業時間や「本買います」の表示もおしゃれでした。

日が暮れてきてから、Camaraという店へ。


文学や人文系の本が充実した、昔ながらの本屋さんというたたずまいのお店。
ショーウィンドーの左下にあるのは、『コンビニ人間』のスペイン語版。出版されたばかりで、たいていのお店に並んでいました。

最後にたずねたのは、Louise Michel。


文芸書のほか、人文系や芸術系の本が多い印象でした。やはりセレクトショップ。

そのほか、Sopa de sapo という児童書店、バスク語の出版社でもあるチェーン店Elkar 、全国チェーンのCasa del libro、コミック専門店Joker、古本屋Boulandierものぞきました。

*************

ビルバオは、私が初めて訳した絵本『かちんこちんのムニア』のアスン・バルソラの生まれた街。スペイン児童文学史上、非常に大きな存在だった作家なので、彼女の本に出会うこともあるかなと期待していたのですが、亡くなって10年以上たつからか、生地のビルバオでも本をぜんぜん見かけなかったのは、ちょっと寂しかった。

ビルバオからサンセバスティアンまでのバスの車窓から見える風景が、ムニアのお話を思い出させてくれたのがせめてもの慰めでした。