2021年2月16日火曜日

マルセロ・ビルマヘール『見知らぬ友』

 

『見知らぬ友』
マルセロ・ビルマヘール著
オーガフミヒロ絵
福音館書店
2021.2.15初版発行

 訳書の点数は50点近くになりましたが、ラテンアメリカ発のYA文学の翻訳はこれが初めて! 記念すべき1冊目となったのは、アルゼンチンの作家マルセロ・ビルマヘールの短編集です。

 2017年11月にグアダラハラ(メキシコ)のブックフェアで見つけて手に取り、読んでまず、「ビルマヘールはcuentista だったんだ!」と思いました。cuentista とは、短編作家ということ。訳者あとがきから、ちょっと引用します。

 この短編集を初めて読んだとき、大きな事件ではなく、日常のちょっとした出来事がさりげなく軽やかに語られていることに惹かれました。時には自虐的に描かれた、とりたててとりえのない主人公の心の動きに共感したり、登場人物たちの人生の悲哀を感じたり、じんわりと心にしみる、快い読後感がありました。また、どの話も落としどころが思いがけなく、短編小説らしいたくらみがあります。

 舞台は、たいていがブエノスアイレスのオンセという地区です。ビルマヘールが脚本を書いた『僕と未来とブエノスアイレス』という映画でも見られる、ユダヤ系の人々が多い街です。

 昨年2月初旬にブエノスアイレスに行ったとき、著者のビルマヘールさんにお会いしました。遊びの旅行だったし、気後れもあって、会わなくてもと思っていたのですが、編集のMさんが、せっかくだから、ご都合だけでも聞いてみてはとエージェント経由で連絡をとってくれて、結局オンセ地区の小劇場でお会いしました。
 すでにひととおり翻訳は終わっていたので、確認したいことや、私が好きなくだりのことなど、1時間ほど話をしました。「ムコンボ」に出てくる「ペロリ」(原文ではChupi)という、カード遊びを実演してくれたり、「地球のかたわれ」のモンテス・デ・オカというのは、実際にそういう苗字の友だちがいたという話をしたりと、よい時間でした。短編のタイトルを日本語版で一部変えることの許可も、そのときもらいました。

 挿絵をオーガフミヒロさんにお願いしましたと編集のMさんに言われて、オーガさんのHPを見たときは、どんなふうになるのか、まったく想像がつきませんでしたが、仕上がってみて納得しました。オーガさんの幻想的な絵が、リアリスティックなビルマヘールの作品と心地よく響きあい、とてもいい感じです。
 装丁は、Mさん担当の前作『太陽と月の大地』(コンチャ・ロペス=ナルバエス著 松本里美画)に引き続き生島もと子さん。いつもながらていねいなお仕事に感謝。カバーをはずすと、中はおしゃれな違う絵が出てきます。地図を入れてほしいという要望にも、ささっとこたえてくださいました。

 実は、この作品は翻訳出版が決まる前、大学の講読の授業でも一部を読みました。学生たちが楽しんで読んでくれたのを見て、いい作品だという意を強くしたのでした。

 物語のおもしろさを知るのに、最適の短編集だと思います。中高校生はもちろん、大人にも手にとってもらえたらと願っています。


ビルマヘールさんと会った小劇場の最寄り駅カルロス・ガルデル駅前の
ショッピングセンター、アバスト内の観覧車

ビルマヘールさんにすすめられて訪れたサン・テルモ地区。
市場のチョリパン屋さんでランチしました。




 


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