タイトル Los animales eléctricos / でんきどうぶつ
絵 コクマイ トヨヒコ
文 マリア・ホセ・フェラーダ
訳 宇野和美
出版社 A buen paso
出版年 2019年1月
縁あって翻訳を担当した、2ヶ国語絵本がスペインで刊行になりました。
元はと言えば、2年前のボローニャ絵本原画展で、審査員を務めたA buen paso の編集者アリアンナ・スクィローニさんが、コクマイさんのコラージュにすっかり夢中になったこと。ボローニャ展の審査員のビデオでも、彼女はこの絵のことを語り、本にしたいと公言しました。
どんな絵本にするのかなと思っていたら、「これは自分にとって、すごく特別な本だ。2カ国語で出したいから、翻訳をしてくれるか」と、その後アリアンナから連絡が来ました。A buen paso は、アリアンナの一人出版社です。アリアンナとは、何度かブックフェアなどで会ったり、本を仕入れたりするうちに、互いの仕事に敬意をはらいあう間柄になりました。
そして、昨年の夏、コクマイさんの絵とともに、チリの詩人で作家のフェラーダさんが書いた詩が送られてきたのです。
さて、そこからが普通の絵本翻訳プラスアルファの、珍しい体験になりました。
まずは翻訳ですが、白黒のデザイン的な動物の絵本なので、てっきり大人向けかと思って訳したのですが、あとで確認すると、5、6歳の子どもに読んでほしいとのこと。
そこで、もう一度、小さな子どもでもわかるように全体の言葉や表現を見直し、訳稿を仕上げました。
その時点で、私が心配だったのは、スペインのデザイナーにふりがなをうまくふれるだろうかということ。アリアンナに、日本語の絵本には「ふりがな」というのがあってね、と言って、見本にいくつかの絵本の画像を送って説明をしました。
その後、「文字の上につけるというちっちゃい文字は、こんな感じでよいか」と、デザイナーの割付見本のようなもの数ページが届いたのが12月。
幸い、ふりがなはうまく入っていました。が、その時ひっかかったのはフォントでした。和文に、太明のような書体が使われていたのです。海外で日本語が出てくるときに、なぜかよく見かける書体です。でも、欧文はサンセリフの書体なのに、どう見てもへんです。そこで、「和文も、いろんな書体があるはずだから、欧文に合わせて、太さが均一な書体にして」と、書体見本を送りました。
そして、12月初旬に、全体を割付をしたPDFが届き、私もはじめて全体像を見たのです。
白黒のイラストの対面ページに色を組み合わせたページ構成。
「こう来たか!」と、うなりました。
でも、スペイン語と日本語を照らしあわせながら、じっくり見ていくと、語順や改行、文字づかいなど、手を入れたい箇所がちょこちょこと出てきました。
それに、語間や行間のスペースも、欧文がベースになっているので手直しが必要でした。日本の文字の並べ方の基本がないのだから無理もありません。「、」は、この1文字分の四角のマスの、このへんに打って、「、」がないときも、語間のアキは四角のマスの大きさになど、すべて説明しました。
翻訳を渡したときに、イラストと合体したところで、もう一度文章に手を入れさせてと言っておいてよかった、と思ったのですが、そこでハタと気付いたのは、「普通に赤字を入れてもだめだ」ということ。アリアンナは日本語がわからないので、1文字ひょいと、加える指示を手書きで書いてもだめなわけです。
どうしたらわかるのだろうと考えた末、PDFをプリントアウトしたものにマーカーをひいて、ここはこれ、そこはそれにさしかえて、というふうに、すべてさしかえで指示を入れていきました。
実際はさほど大量の赤字ではなかったのですが、ちょっとしたスペースの調整でも、大げさに見えるので、受け取ったアリアンナは「こんなに修正するの?!」とショックだったようです。
「どうしてか、どこが違っているのかよくわからないけれど、直すわ」と、ふんばってくれました。
最初、表紙には和文は入っていなかったのですが、書名、著者名は日本語でもいれてほしいと頼んで、今の表紙デザインになったのはよかったなと思います。
そんなこんなで、できあがったのがこの本です。
コクマイさんの絵は、新聞の切り抜きのコラージュからできているそうです。その質感が出るように、絵本には、風合いのあるマットな紙が使われていますが、アリアンナによれば、「実物はずっとずっとすばらしい」そうです。
今年のボローニャブックフェアで、コクマイさんは、アリアンナとこの本のプレゼンテーションをし、子ども向けのワークショップをするとのこと。
日本から応援しています!
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