2019年3月13日水曜日

絵本『おにいちゃんとぼく』2019年2月刊


『おにいちゃんとぼく』
文:ローレンス・シメル
絵:フアン・カミーロ・マヨルガ
光村教育図書
32ページ
いいでしょ、ぼく!
いい友だちがいるし、
すごいおにいちゃんが

いるんだもん。
米国出身でマドリード在住の作家と、コロンビアの若手イラストレーターのよる絵本を翻訳しました。

盲目のお兄ちゃんと弟のお話ですが、お兄ちゃんは目が見えないと、文章ではひとことも言っていないのが、この絵本のおもしろさにつながっています。
ぼくのうちだと、なんでも置き場がきまってる。
どこにあるか、おにいちゃんがわかるように、
使いおわったらすぐ、
もとの場所にもどさなくちゃいけない。
という、3つめの見開きにある文章を読んだとき、読者は、(なんだか、めんどくさいお兄ちゃんだな)と思うかもしれません。
でも、お兄ちゃんが暗闇のなかで、「本のページの点てんを指でなぞる」というところまでくると事情がわかり、お兄ちゃんだけ犬をもらえたことや、お兄ちゃんは記憶力がよくて階段の段数もおぼえていることを、なるほどと思うのです。

目の不自由なお兄ちゃんとの毎日が、「ぼく」にとってごく普通の日常であることが、軽やかな明るい絵とともに伝わってきます。

はじめて読んだときから、すごく気に入った作品でした。シメルの文章もよかったし、マヨルガの絵もとても感じがよく。マヨルガは、今注目されているコロンビアの若手イラストレーターのひとりです。幸い、わりあい順調に出版が決まりました。

でも、制作途中で仰天することがありました。
翻訳は、シメルからもらったPDFで進めていたのですが、デザインに入った段階で、ようやく届いた原書を開いてみると、まんなかあたりの黒い見開きページに、なんと点字が入っていたのです!

編集のSさんがあわてて先方に問いあわせ、点字の内容を教えてもらいました。
大ざっぱすぎると思いませんか? 文章でデリケートなところを見せるシメルが、こういうところはやけに鷹揚で、「点字が入っているなら、先に言ってよ!」と、2月にマドリードで会ったときに言ったら、「PDFじゃわからなかったね」と、笑っていました。くーっ!
結局、点字で入っていた文字は、本文とは書体を変えた灰色の文字で、その黒いページの右側に入れてもらいました。

装丁は、『マルコとパパ』でお世話になった鳥井和昌さん。鳥井さんのスペイン語の先生はコロンビアの方だそうで、鳥井さんのスペイン語&ラテンアメリカ愛の深さに、またしても助けられました。
ありがとうございました!

ローレンス・シメルとは『パパのところへ』(岩波書店)以来のおつきあいです。
外国に出稼ぎに行っているお父さんのもとにお母さんと行くことになった女の子の不安や揺れる思いが描かれた、こちらも胸にしみる絵本です。


『おにいちゃんとぼく』の原書¡Qué suerte tengo! は、コロンビアのRey Naranjo の刊行。Rey Naranjoは、グラフィックノベルでも注目の出版社で、ガルシア=マルケス、ルルフォ、ボルヘスの伝記コミックも出しています。
(ボルヘスの伝記については、松本健二さんがブログでもご紹介しています。こちら。)
出版社のHPを開くと「私たちは独立系出版社です。本の力と、読者の力を信じています」という文字が出てきます。志のある若い出版社。いいなあ、コロンビア。

図書館や書店で手にとっていただけたらうれしいです。

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