『いっぽんのせんとマヌエル』
マリア・ホセ・フェラーダ文
パトリシオ・メナ絵
星野由美訳
偕成社
先月末に刊行された上記の絵本をかいた、チリ出身の作家と画家が来日し、今日は神保町ブックハウスカフェでイベントがありました。
2017.9.4 神保町ブックハウスカフェで・ 左からフェラーダさん、星野さん、メナさん。 |
1本のせんを中心にしてマヌエルくんの1日をたどった、こぶりのかわいらしい絵本です。
この絵本の特徴は、ピクトグラムがついていること。
そもそものきっかけは、作家のフェラーダさんが、ピクトグラムつきの絵本を読んでいる自閉症のマヌエルくんとお母さんの映像を見たこと。その後、実際に二人と出会い、「せん」にこだわりを持つマヌエルくんのことをみんなが知ってくれると同時に、マヌエルくん自身も楽しめる絵本をつくろうと、この絵本がうまれたとのこと。
ガリシア地方に滞在していたフェラーダさんと、バルセロナ在住のメナさんが、マヌエルくんとお母さん、カウンセラーさんと学校のほかの子どもたちにも何度も見てもらいながら、苦労しながら仕上げていったそうです。
今日のお話を聞いてなるほどと思ったのは、学校から帰ってきたマヌエルくんが、「せんの むこうの ママと あくしゅ」する場面。
なにげなく読んでいましたが、フェラーダさんの説明によると、自閉症の人はほかの人と関係を持ちにくく、感情を表現するのもむずかしい。けれどもここで、家に帰ってきたマヌエルがにこにことママとあくしゅするというのは、自閉症の子どもでも自分からこのように握手することもできることをあらわしている、とても重要な画面だとのこと。
線があるから、安心して人と関係を持てるということも、原文のpor ella(por la linea線によって) は表しているのかなと改めて思いました。
スペイン語版にはピクトグラムはついておらず(出版社のホームページからダウンロードできる)、日本語版では、スペイン語版のピクトグラムをもとに、訳文に合わせて独自にピクトグラムをつけていったそうです。
そのあたりのプロセス、製作の工夫も偕成社の編集者の千葉美香さんが説明してくださいました。日本語の意味に合わせて、画家のメナさんが、新しい図案でつくったものもあります。この絵本は、日本だけのオリジナル版になっているのです。
テキストの語ること、絵の語ることをそこなわずに、ピクトグラムというもうひとつことばを添えていくという試みは挑戦だったが、たいへん豊かな経験だったとメナさんが語っていました。
ラテンアメリカ発の、新しいバリアフリー絵本。
公共図書館はもとより、この絵本そのものを楽しめる保育園、幼稚園、小学校はもちろん、インクルーシブな試みや福祉について学ぶ中学校、高校、大学でも、置いてもらえますように。
9月8日、9日のイベント情報はこちらで。
http://www.kaiseisha.co.jp/news/23431
0 件のコメント:
コメントを投稿