2018年3月22日木曜日

『もしぼくが本だったら』♪



『もしぼくが本だったら』
ジョゼ・ジョルジェ・レトリア文
アンドレ・レトリア絵
アノニマ・スタジオ
本体価格1800円
「もしぼくが本だったら……」ではじまる、詩的な文章と現代的なイラストレーションが魅力の、ポルトガル生まれの絵本。広い世界で心が迷子になったときにそっと私たちに寄り添って、新たな道やヒントをくれる「本」の力をあらためて感じる一冊です。 (アノニマ・スタジオHPより)
『はしれ! カボチャ』(エバ・メフト文、宇野和美訳、小学館)で、大きなカボチャと、網タイツに赤いハイヒールの元気なおばあちゃんの絵を描いたポルトガルのイラストレーター、アンドレ・レトリアさんの2冊目の翻訳絵本です。
(保育士をしている友人は、敬老の日の頃、おじいちゃん、おばあちゃんが園に来るときに、いつもこの『はしれ!カボチャ』を読み、「いつまでもこんなすてきなおばあちゃんでいてくださいね」と、しめくくるそうです。子どもも大人も大喜びするすてきな絵本だと言ってくれます。もう10冊以上売ったよ、とのこと。ありがたやー)

 バルセロナの書店で、レトリアさんの名前を見てこの本のスペイン語版を手にとったとき、オリジナルがポルトガル語だったので買おうかどうしようか、ちょっと迷いました。だけど、感じのよさそうな本だったので、ゆっくり見たくて買って帰ったのが、たぶん2年前の秋。でも、ポルトガル語だしね、詩だしね、と積極的に売り込んだわけではなかったのですが、偶然が重なり、翻訳をさせてもらえることになりました。
 ポルトガル語の翻訳家の知人の手前、申し訳なさもありますが……すてきな絵本になってうれしい。
 本好きの方へのプレゼントにもどうぞ!

 おもしろいのは、読む人によって引用するページが違うこと。この言葉が好き、この絵が好きと、言われるとうれしくなります。
 文を書くのが好きな人、絵を描くのが好きな人がそれぞれ、自分の「もしぼくが本だったら」「もしわたしが本だったら」をつくっても楽しそう。

 この本の刊行が決まるなり、代官山蔦屋書店の児童書コンシェルジュ山脇さんが、トークショーを企画してくださいました。昨年『太陽と月の大地』(福音館書店)が出たときから、いつかイベントを、と声をかけていただいていたのが、今回ようやく実現しました。『マルコとパパ』のときの投稿と重複しますが、再度ご案内します。
 
◆3月24日(土)19:00~
代官山えほんのはなし
『マルコとパパ』(偕成社)『もしぼくが本だったら』(アノニマ・スタジオ)刊行記念
「父と子」について語る 
@代官山蔦屋書店 1号館2Fイベントスペース
参加費:1000円
→イベントお知らせページはこちら
「父と子」により本となった、今回刊行の2冊についてはもちろん、翻訳をするようになったきっかけ、これまで訳してきた本のこと、子連れ留学のこと、マイナー言語の翻訳者のサバイバル、子どもの本・スペイン語圏の本への思いなど、いろいろお話する予定です。
 当日とびこみでも大丈夫そうなので、どうぞいらしてください。

2018年3月14日水曜日

『マルコとパパ ダウン症のあるむすことぼくのスケッチブック』刊行!



『マルコとパパ ダウン症のあるむすことぼくのスケッチブック』
グスティ作
偕成社
本体価格 2800円 →偕成社HP
 ダウン症のある息子マルコとの関係を、ラテンアメリカ出身のイラストレーター・グスティが、父親の視点から、かざらない言葉と、ユーモアあふれるイラストで誠実に描きだした作品。
最初は受け入れられず、困惑するだけだった自分のこと、家族や周りの人たちの言葉、ありのままのマルコを愛するようになったこと、マルコのお気に入りの遊びやさりげない日常の一コマ、そしてマルコをはじめ障害のある子ども・人々と共に生きることの意味が、シンプルな言葉と、見るものの心をつかむイラストレーションで綴られる。(偕成社HPより)
ここ2年取り組んできた『マルコとパパ』が、とうとう刊行されました。

 この本との出会いは、2014年、メキシコシティで開催されたIBBY(国際児童図書評議会)の世界大会。インクルージョンのパネルディスカッションで、グスティがこの本について話すのを聞いたときでした。
 
 グスティはアルゼンチン出身で、長くスペインで活躍しているイラストレーターです。挿絵の仕事などを入れると、たぶん100点以上の本を手掛けています。日本語に翻訳されている作品もあります。たとえば、こちらのコラージュの作品『ハエくん』(フレーベル館、絶版)。オチは奇想天外です(知りたい方はぜひ図書館へ!)。
 

 とても絵のうまい人、という印象しかなかったのですが、その時はじめて、グスティにダウン症のあるお子さんがいるのを知りました。

 そして、とりよせた原書を偕成社の編集者Sさんにお見せしたのはたぶん3年前。145ページ、オールカラーというとんでもない企画をやろうと言ってくれたSさんの勇気がなければ、できなかった本です。
 さらに、もともと手描き文字が中心の原作を、手描きのあたたかさを残しつつも、読みやすい日本語版に変身させてくれたのは、デザイナーの鳥井さんのお力でした。日本ダウン症協会の方に、ゲラの段階でていねいに読んでいただいたのも、この本にとってなくてはならないことでした。
 まさに「愛」のこもった、こうしたプロセスに支えられてできた本です。
 ありがとうございました!

 3月20日と3月24日には、次のイベントが予定されています。
 出版の裏話など、できあがるまでのことをいろいろお話しますので、どうぞいらしてください。

◆3月20日(火)18:30~20:00(終了後サイン会)
世界ダウン症の日記念トークイベント
『マルコとパパ』と『弟は僕のヒーロー』が教えてくれること
@ブックハウスカフェ(東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F)
参加費:1500円 
→イベントお知らせページはこちら
 イタリア語の翻訳家関口英子さんとご一緒に、それぞれの作品のビデオも見ながら、障害を扱った作品のイタリアやスペインの出版事情、翻訳のことなど、お話します。

◆3月24日(土)19:00~
代官山えほんのはなし
『マルコとパパ』(偕成社)『もしぼくが本だったら』(アノニマ・スタジオ)刊行記念
「父と子」について語る 
@代官山蔦屋書店 1号館2Fイベントスペース
参加費:1000円
→イベントお知らせページはこちら
 3月に出た絵本とともに、コンシェルジュの山脇さんのご案内でお話します。これまでの翻訳の仕事のことはもちろん、子連れ留学のこと、マイナー言語の翻訳者のサバイバルにも触れるかも。

 2月27日には、駒込のBOOKS青いカバで、デザイナーの鳥井和昌さんと一緒に「日本版『マルコとパパ』ができるまで 翻訳とデザインと」というトークをさせていただきました。
 このイベントについては、以下をご覧ください。
 駒込のギャラリーときの忘れものブログ 小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第8回
 偕成社イベントレポート
 
 出版されたら、本は独り歩きしていくものですが、ひとつだけ弁護したい点があります。
 この本について、「子どもの本と言えないのでは?」という意見も聞こえてくるのですが、私としては、やはり子どもたちに読んでほしいと思って翻訳しました。小学校中学年の読者にも届くような訳文を心がけたつもりです。
 父親の視点で書かれていますが、グスティの「ふつうって、いったいなんだろう。障害って、なんだろう」という問いかけは、この本を通して子どもの読者も考えていくでしょう。お兄ちゃんのテオの姿は、セシリア・スドベドリ『わたしたちのトビアス』(山内清子訳、偕成社)を思いださせます。
 だから、大人も子どもも手にとってくれるといいなと思っています。

2018年3月5日月曜日

え、これ出たの! スペインの児童文学2点



最近2作続けて、スペイン児童文学の古典とも言うべき作品が翻訳出版されました。

『灰色の服のおじさん』El hombrecito vestido de gris
フェルナンド・アロンソ著/ウリセス・ウェンセル絵/轟 志津香
小学館

『ゆかいなセリア』Celia, lo que dice
エレーナ・フォルトゥン著/西村 英一郎・西村 よう子訳
彩流社

『灰色の服のおじさん』は、1978年にアルファグアラ社から刊行された、8編のお話からなる短編集です。中の1編を私も2007年に『おおきなポケット』(福音館書店)という雑誌で訳しました。佐々木マキさんの絵がとってもすてきだったので、その後、8編全部を収めて幼年読み物として同社で出せないかと提案しましたが、かないませんでした。

自由や人間らしさを脅かすものへの批判をこめつつ、声高にならず静かに語った物語は、派手さはありませんが、じんわりと胸に迫ります。最初はとっつきにくいかもしれませんが、1編の一部でも朗読すると、子どもも手にとってくれるでしょうか。

文章がとても美しいので、もう10年以上、通信添削の教材として使ってきた作品でもあります。アルファグアラ社の並製版は5、6年前に絶版になりましたが、現在はカランドラカ社の上製本が出ています。教材の本が絶版になっては困ると思って買い込んだので、ミランフ洋書店にはまだアルファグアラ版の在庫があります。復刊はうれしいけれど、作りがりっぱになったぶん値段が高くなるのは最近よくある苦々しい傾向です。

そんなわけで、翻訳出版されたと知ったときは呆然となり、一晩、仕事が手につきませんでした。でも、こういう本が出るのは喜ぶべきことですね。

『ゆかいなセリア』は、1928年から当時大流行した児童雑誌に連載され、スペインの子どもたちをとりこにした古典です。

夫が作家で、マドリードで文壇カフェに通い、文人との交友もあったフォルトゥンは、明るく、機知に富んだ女性で、「そんなにおもしろいことがあるなら、ぜひ本にしなさいよ」と、女友だちから書くことをしきりにすすめられて書き始めたといいます。セリアの物語はシリーズ化し、フォルトゥンが内戦中に亡命した後も続きましたが、フランコ体制のあいだに、作品はすべて抹殺されてしまいました。ようやくアリアンサ社で最初の数冊が復刊されたのは1992年のこと。その新版には、カルメン・マルティン=ガイテの熱いプロローグがついています。

お話は、7歳の女の子の一人称の語りで展開します。雑誌連載がもとになっているため、小さなエピソードが並んでいます。子どもらしいまっすぐな目線で大人の現実のおかしさをとらえるセリアは、無邪気ですが、たくましくしたたかです。子どもらしい発想の行動から思わぬ騒動を巻き起こすセリアに、読者は大笑いしたり、大丈夫かなと気をもんだり、やっぱり叱られたよと思ったり……。そういうところが子どもの共感を呼んだのでしょう。そこには、フォルトゥンの社会を見る確かな目も感じられます。

もともと7、8歳以上の子どもたちが楽しんだ作品なので、日本版は表紙はかわいらしいけれど、本の作りや訳が大人っぽいのがちょっと残念。

読み物の企画を、私もなんとかとりつけたくなりました。がんばろう。

2018年3月4日日曜日

『動物たちは、冒険家!』2018年1月刊


『動物たちは、冒険家! 地球を旅する生きものたちの不思議』
文:キム・トマス
絵:フリオ・アントニオ・ブラスコ
河出書房新社

ウミガメのひとり旅は、大西洋を12000km!? アフリカの砂漠、北極に南極、熱帯雨林……命の危険をかえりみず、地球をダイナミックに横断する動物たちといっしょに旅に出よう!
(河出書房新社HPより)

『動物たちは、お医者さん!』『動物たちは、建築家!』との3冊シリーズのうちの1冊。版元さんから声をかけていただいて翻訳するのは5年ぶり(!)だったので、科学絵本と聞くも二つ返事で引き受けました。

見開きで1つ、14の生き物が登場します。アカウミガメ、キョクアジサシ、オオカバマダラ、アフリカゾウ、ストローオオコウモリ、サバクトビバッタなど、昆虫から爬虫類、哺乳類、鳥類など、とりあげられているものはさまざま。
右ページに10センチほどの折り返しがあるデザインもしゃれています。めくって楽しい本です。

専門的なことばも出てきますが、全体として3、4年生からストレスなく読める表現になるように心がけました。
手にとっていただけたらうれしいです。