訳者の言いわけ
―スペイン語翻訳者 宇野和美のページ―
2025年8月21日木曜日
チリの作家マリア・ホセ・フェラーダさん来日イベントを終えて
2025年2月27日木曜日
海の向こうに本を届ける 著作権輸出への道
今月半ばの寒い朝、2月8日に栗田明子さんが亡くなられたという知らせを受けました。
栗田さんは、日本文学の版権輸出の道を拓いたパイオニアです。
縁あって私は、1997年10月ごろから1999年初夏までと、留学をはさんで2003年から2年くらい、栗田さんのアシスタントをしていました。海外からオファーが来たら、その内容を作家や出版社に連絡したり、契約書を作ったり、契約書を送って押印してもらったりという週3日のパートでした。
出産後、文化的刺激がほとんど皆無の毎日を過ごしていたときだったので、海外とつながり、文学の話題が飛び交うなかで働くのは楽しいことでした。
「出版ニュース」への連載のあと本になった『海の向こうに本を届ける』(晶文社、2011)には、驚くような冒険の数々が綴られています。大胆で、思い切りがよく、明るく、たくましく、すごいなあとため息が出ることばかりです。なかには、私がリアルタイムで見ていたこともあって、あのとき栗田さんは、こんなことに挑戦なさっていたのか、とドキドキします。
情熱、言い訳をせず、驕ることも卑下することもなく、正直に人と向き合うことが仕事のうえで大切だということは、栗田さんの仕事ぶりから学んだことかなと思います。
引退されて、芦屋に移られてから2度ほど訪ねましたが、2019年9月、芦屋文学サロン「小川洋子の世界を語る」に小川洋子さんとともに登壇されたときにお話を聞いたのが最後になりました。
静かに逝かれたとのこと。どうぞ安らかに、とお祈りします。
2025年1月25日土曜日
『この銃弾を忘れない』
2024年9月22日日曜日
翻訳特別賞をありがとうございます
このたび、フェルナンダ・メルチョール『ハリケーンの季節』(早川書房)の翻訳で、NPO法人日本翻訳家協会より翻訳特別賞をいただけることになりました。
どうもありがとうございます。
気づくとデビューから25年たっていて、同年代が定年を迎える年廻りなのに、翻訳者としての足場がまだまだ安定していないことに焦りをつのらせていたのは4年前のことです。明日の保証はなく、「もうやーめた」と自分が言えばそれっきりだな、と思っていました。
そんな心持ちが少しずつ変化してきたのは、ここ3年くらいのことでしょうか。賞があってもなくても、できることしかできないし、日々やることは変わらないのだけれど、今回の表彰で、その仕事をやっていていいよ、とさらに肩を押してもらえた気がして、とても励まされました。
それに、多くの友人が自分のことのように喜び祝福してくれたのが殊の外うれしく、幸せをかみしめています。ほんとうにありがとう!
また、この仕事をいただけたのも、ネッテル『赤い魚の夫婦』(現代書館)があってのことでした。ネッテルを出してくれた編集の原島さん、あらためてありがとうございます!
これからも精進し、翻訳していきます。
2024年7月8日月曜日
牧落の市場まで
先日、地元のあるイベントで、ボランティア仲間のMさんと話をしていたら、なんと、小学校の前半をすぐご近所で送り、共通の場所で遊んでいたことがわかりました。
大阪府箕面市の社宅で過ごした数年間。
当時の記憶をたどっていたら、牧落の駅のそばにある市場まで母と買い物にいったときのことがよみがえってきました。
昔ながらの市場は、いろんなお店が入っていて、私が覚えているのは、さまざまな色合いの味噌を山型にとんがらせてしゃもじを刺していた味噌や乾物のお店とか、サマーヤーンなどの手芸用品を売っていたお店、うぐいすもちや草餅や桜餅を売っていた和菓子屋さんなど。
母は、どんなものを買っていたのかな。
市場までの道は影がなくて、夏の日差しの下、「暑いね」と言いながら、手をつないで歩いた覚えがあります。途中に川があったような。
そういえば、歌ったら元気が出るよと言われて、かけあいで歌ったのではなかったか。
なんだったけな、どんな歌だったっけ・・・。すると、歌の最後の部分が浮かんできました。
・・・庭のおいまつ
ググってみると出てきました。
春は緑の においめでたく
夏は木かげに わたるそよかぜ
雪のあしたも 月のゆうべも
ながめゆかしき 庭の老松
渋いけど、美しい! 幼稚園児か小学校低学年だった自分が、こんな歌をうれしそうに母と道々歌っていたとは!
春は、春は・・・、緑の、緑の・・・と、母について歌えばよくて、まちがえずついて歌えると母もにこにこして、うれしかったな。
あの頃、寝たきりの祖母がいたのに、どうして祖母も姉もおいて、2人で出かけられたのかわからないけれど、子どもとたまに買い物に行くのがうれしかったのだろうなと、30代半ばだった若い母を思って、ちょっとうるっとなってしまう。
父はいたけれど、今、私の頭の中では、矢野顕子の「愛について」が鳴りひびいています。
遠い遠い、昔のこと。
Mさん、思い出させてくれてありがとう!
2024年5月19日日曜日
ある金曜日
1か月以上前に頼まれた、やっかいな原稿の締切日だった。JBBY(日本国際児童図書評議会)会長名義で書く文章で、余裕をもって頼まれていたのに案の定難航して、ゴールデンウィークごろから落ち着かなかった。
構成を考えて、資料を読んで、どうすれば説得力を持たせられるかと悩んで、書いては消し、消しては書き。削除したけれど復活させるかもとプールしたテキストが積もり積もって2000字にもなるのにまだできない。
もう一息と思いながらwordを離れると、『ハリケーンの季節』の担当編集さんからメールが来ていた。「選考会の時間は、会社で待機しております。」
この日は、日本翻訳大賞の最終選考会が5時から7時まであって、入賞した訳者にだけ電話連絡がくることになっていた。
その後、再び担当編集さんからメール。日本翻訳大賞の選考・運営委員の西崎憲さんからのメールを転送してくださる。ありがたい言葉。
正午すぎ、ようやく4000字あまりの原稿が仕上がって、副会長と事務局に、とりあえずこれで提出しますと連絡。長い長いトンネルを抜けた気分。
スパゲティをゆでて、冷凍してあったミートソースで昼ごはん。我ながらおいしい。
朝ほした洗濯物がきれいに乾いていたので、とりこんでたたむ。
ミランフ洋書店で発送する本があり、梱包する。郵便局に行こうと自転車に乗ったら、ペダルを漕ぐなりキーキーいやな音がする。
アパートの前の駐輪スペースで、カバーをかけてある隣の自転車が、風が強いと必ず倒れかかる。その前日もまきぞえをくって、自転車が横転していたのを思い出す。よく見ると、チェーンガードの一部がへこんでいる。まいったなあ。
なるべくペダルをこがないようにして、郵便局に行って帰ってきて、自転車屋さんにいつ持っていけるかなと考える。
少し前に翻訳原稿をおさめたノンフィクション絵本の進行が気になっていたので、某出版社に電話。「出すのは来年かな」と言われて、ちょっとホッとする。
昨年、スペインの翻訳助成金をもらった絵本の出版報告の文書がそろったので、提出手続きをする。担当編集に完了の連絡をして、6月になったら一度、ゆっくりお会いしましょうと、メールでやりとり。
スペインの翻訳助成金の申請サイトに入ったついでに、今年の申請時の記入事項を一通りチェック。去年とかわりがなくて安心する。
くだんの原稿を、メールで送信して納める。
夕方、『赤い魚の夫婦』の編集者さんとの待ち合わせ場所に向かう。「前のときは、一緒にいられなかったから、今度は一緒にいますよ」と、声をかけていただいていた。
電波が入りそうな焼き鳥屋を予約してくれていて、近況報告をしあう。
生ビール2杯目に入る。普段の家飲みだと350cc缶で十分なのに、どうして飲みにいくと2杯は飲んでしまうのか。
窓際の席から、だんだん暮れていく街が見える。ずいぶん日が長くなったなと感じる。
7時をまわって、「もうないかな」と思ったけれど、担当編集さんに電話したら、受賞したと勘違いされそうで申し訳なく、テーブルに置いたスマホをただ見ている。
スマホに着信があり、とると担当編集さん。
「来ませんね」「ダメでしたね」「引き続き売りますよ。また別の作品も」「すみません」みたいな会話。気づかいに、いたみいる。
「2時間です」と、焼き鳥屋を追い出される。
沖縄料理屋へ。
最近の仕事のこと、秋に予定している本のこと、腹立たしく思ってしまう赤字とそうでない赤字がどうしてあるのだろうという話、メキシコ大使館のイベントで声をかけてもらってから『赤い魚の夫婦』に至るまでの思い出話、「ネッテルは、ほんとによかったね」「ゴーヤが苦くておいしいね」「シークワーサーサワー、濃いね」「ネッテル、またよろしく」など。
沖縄料理屋を出て、地下鉄の入り口近くの、植え込みのレンガのところで、さらに30分以上おしゃべり。かたい握手で別れる。
帰りの地下鉄のなかで、「人様の運命を少し変えるかもしれないことなので、できればやりたくない。逃げだしたい。」という、西崎憲さんのツイートを読む。
だいじょうぶ。賞がなくても、運命は変わらないよ、と思う。
2年前と違って、これからも自分なりの仕事ができる自信がついたから。もういいよ、という気持ち。
悔しくなくはないけど、審査員に読んでいただき、真剣に討議していただけたのは、信じられない僥倖だ。10年前の自分に教えてやりたい。
審査員にも賞の運営スタッフにも、応援してくれた読者の方にも感謝。10回も続けてこられたなんて、スゴイ。
日曜日は、受賞者をたたえよう(と、思えたのは、ほんとうは翌土曜日)。
2024年5月6日月曜日
『アチケと天のじゃがいも畑』