2025年8月21日木曜日

チリの作家マリア・ホセ・フェラーダさん来日イベントを終えて

ラテンアメリカで子どもの本を書くということ
〜チリの国際アンデルセン賞候補作家マリア・ホセ・フェラーダさんを迎えて
というタイトルで、8月15日に神保町のブックハウスカフェでトークイベントを開催し、聞き手と通訳をつとめました。

 ガブリエラ・ミストラルのノーベル賞受賞80周年を記念した使節団として来日を機に、東京でもお話していただけるということで企画したものです。
 ご来場いただいたみなさま、オンラインでご視聴のみなさま、ありがとうございました。


 ラテンアメリカの中でもチリは特に遠くて(片道30時間かかります)、子どもの本の作家や画家が来てくれる機会はめったにありません。しかもフェラーダさんは、IBBYが主催の、2026年国際アンデルセン賞のチリ選出作家賞候補なので、JBBY(日本国際児童図書評議会)でもお迎えしたかったのですが、お盆の時期のため、残念ながらその機会は持てませんでした。

 トークでは、冒頭で5月に私が訪れた首都サンティアゴのBILIJ図書館を少しだけ紹介したあと、和訳のあるフェラーダさんの本4点を紹介。

「せん」にこだわりのあるマヌエルくんの1日を描いたピクトグラムつき絵本
『いっぽんのせんとマヌエル』パトリシオ・メナ絵 星野由美訳 偕成社 2017

「休日にマヌエルくんは何をしているの?」という子どもたちの疑問から生まれた日本オリジナルのシリーズ2巻目『いっぽんのせんとマヌエル ピクニックのひ』同 2020

ボローニャ絵本原画展に入選した日本のイラストレーター、コクマイトヨヒコさんの絵にあとから文章をつけた、スペインで刊行の2ヶ国版。
『Los animales eléctricosでんきどうぶつ』宇野和美訳 A buen paso 2018


BIBグランプリに輝いたチリのパロマ・バルディビアさんの出版社リエブレ刊行の仕かけ絵本。『ぴぅ!』マグダレナ・ペレス絵 星野由美訳 ワールドライブラリー 2021 

 そのあと、本とどのように親しんできたか、子どもの本を書くようになったきっかけ、テーマへのアプローチなど、いろいろお話をうかがいました。
 お父さんが「読者クラブ」に入っていて、本が届くのを楽しみにしていたこと、15歳ちがいの弟さんが生まれて、弟さんにお話をつくってあげたことなどなど、興味深いお話をたくさんうかがえました

 後半は、フェラーダさんの未訳作品を、朗読をまじえて紹介していきました。


チリの独裁時に命を落とした34人の子どもたちを描いたniños(子どもたち)
マリア・エレナ・バルデス絵 Liberalia 2020(2013)


スペイン内戦のときにメキシコに船で渡り、一時避難のつもりが永遠の国外追放となってしまった456人の子どもたちを描いたMexique el nombre del barco (メキシック 船の名前)
アナ・ペニャス絵 Tecolote/Alboroto 2017


簡素で余韻のある言葉がきわだつ美しい巻物型絵本 Un jardín (ある庭)
イシドロ・フェレール絵 A buen paso 2016


夢と希望のある未来が広がる、イラストもおしゃれなFuturo (未来)
マリアナ・アルカンタラ絵 Alboroto  2022


どうぶつの学校は、人間の子どもの学校とよくにています……。シリーズ化予定の幼年童話。
El día que el zorro vino volando(キツネが飛んできた日)
イッサ・ワタナベ挿絵 Fondo de cultura económica 2024


行商をしていたお父さんをモデルとした父親が登場する小説Karmp(クランプ)
Empecé /Planeta 2017

そして最後に、10月に実業之日本社から翻訳が刊行される予定の『ティーとカメレオン ふたりはいつだっていっしょ』鹿島孝一郎原作・絵

 最後の質問タイムでは、フェラーダさんの作品世界をさらによく理解できるようなご質問を会場からいただいて、とてもよい時間になりました。
 フェラーダさんと日本の読者とのすばらしい出会いの場となり、とてもうれしかったです。

 このイベントはアーカイブ配信の申し込みも受け付けていますので、見てみようという方は、下記のリンクからお申し込みください。2025年9月20日までです。

 イベントの翌日、一緒にちひろ美術館・東京に行き、展示を楽しみました。
 近いうちにまた日本かどこかの国でお会いできるよう、また願わくば、フェラーダさんの作品をもっと日本で紹介していけるよう願っています。





 

2025年2月27日木曜日

海の向こうに本を届ける 著作権輸出への道



今月半ばの寒い朝、2月8日に栗田明子さんが亡くなられたという知らせを受けました。

栗田さんは、日本文学の版権輸出の道を拓いたパイオニアです。

縁あって私は、1997年10月ごろから1999年初夏までと、留学をはさんで2003年から2年くらい、栗田さんのアシスタントをしていました。海外からオファーが来たら、その内容を作家や出版社に連絡したり、契約書を作ったり、契約書を送って押印してもらったりという週3日のパートでした。

出産後、文化的刺激がほとんど皆無の毎日を過ごしていたときだったので、海外とつながり、文学の話題が飛び交うなかで働くのは楽しいことでした。

「出版ニュース」への連載のあと本になった『海の向こうに本を届ける』(晶文社、2011)には、驚くような冒険の数々が綴られています大胆で、思い切りがよく、明るく、たくましく、すごいなあとため息が出ることばかりです。なかには、私がリアルタイムで見ていたこともあって、あのとき栗田さんは、こんなことに挑戦なさっていたのか、とドキドキします。

情熱、言い訳をせず、驕ることも卑下することもなく、正直に人と向き合うことが仕事のうえで大切だということは、栗田さんの仕事ぶりから学んだことかなと思います。

引退されて、芦屋に移られてから2度ほど訪ねましたが、2019年9月、芦屋文学サロン「小川洋子の世界を語る」に小川洋子さんとともに登壇されたときにお話を聞いたのが最後になりました。

静かに逝かれたとのこと。どうぞ安らかに、とお祈りします。

2025年1月25日土曜日

『この銃弾を忘れない』

 


『この銃弾を忘れない』
作:マイテ・カランサ
徳間書店
2024.12

おとなたちの戦争のさなかに
少年は困難な旅に出る・・・

1938年の夏から秋のスペイン北部を舞台に、捕虜収容所にいる父のもとへ、狼や逃亡兵・ゲリラの潜む200キロの山中を、13歳の少年が愛犬を道連れに旅していく物語です。

この作品を最初に読んだとき、主人公のミゲルが旅の目的を果たせますようにと思いながら、読む手が最後まで止まりませんでした。好んで出かけたわけではないその冒険のなかで、ミゲルが考え、スペイン内戦の実相がちらちらと見えてくるところがいいな、と思いました。

いざ訳してみると、「わからない」「これはなんのこと?」と編集者から指摘がつぎつぎ入り、ミゲルとともに読者にハラハラドキドキしてもらうには、思った以上に説明が必要だったのですが。

内戦下やフランコ独裁時代のレオン地方やアストゥリアス地方の山岳地帯には、フランコ側につきたくなくて逃げた人びとやゲリラ(「マキス」と呼ばれていました)がひそんでいました。

同じような状況下の物語に、『リャマサーレス短篇集』(木村榮一訳 河出書房新社)に収録された「ラ・クエルナの鐘」や「夜の医者」(これは場所は違います)がありますが、ほんとうに恐ろしいんです。

内戦って? ファシズムって? 思想統制って?などを、考えるきっかけにもなる物語です。
映画『パンズ・ラビリンス』『ブラック・ブレッド』などにもつながっています。

30年前に私の翻訳デビュー作ジョアン・マヌエル・ジズベルト『アドリア海の奇跡』を担当してくれた徳間書店の編集者上村令さんと、彼女が引退する前にもう1作!という願いを、ようやくこの仕事でかなえることができたのもうれしいことでした。

徳間書店が隔月に発行している「子どもの本だより」2025年1、2月号にインタビューものせていただいたので、機会があったらご覧ください。

どうか手にとっていただけますように。