宇野和美の仕事

2022年9月2日金曜日

説明をお願いします

  ここ数年、いろんな出版社の方と仕事をする機会にめぐまれ、それはとてもありがたいことなのですが、とまどうことも増えています。

 それは、編集者ごとに手順が微妙に違うこと。というよりも、その手順をきちんと説明してもらえないことです。

 絵本も読み物も、デジタル化が進んで、編集者によって進め方が異なります。呼び方ひとつとっても、たとえば絵本の場合、翻訳をして、デザイナーが文字をいれたものを「初校」と呼ぶ人もいれば、それは「デザインしたものの出力」とか「レイアウト校」とか呼ぶ人もいます。「初校」が、ゲラの「初校」というわけではないのです。

 呼び方の問題だけならいいのですが、私が知りたいのは、それぞれの過程の内容です。

 私の一番好きな進め方は、翻訳の第1稿を出したところで編集者にコメントをいただき、もう一度推敲した第2稿で入稿してもらうこと。編集者の赤で必ず気づきがあるので、けっこう私はそこで修正を入れたくなるからです。少量でも的確で本質的なコメントをもらえると、ほかにも同じ視点で修正すべき箇所が見えてくるし、原稿を大きくつかんでの印象や方向性の確認をしてもらえると安心します。甘えているのかもしれませんが。

 最初から、第2稿の質に持っていけたらと思うのですが、残念ながら、私はまだそれができません。タマネギの皮をむくようにしか進められないのです。

 第1稿がすぐにゲラになった場合、赤字が多くなり、戻すときにいつも「すみません。かなり赤字が多いんです」と謝ることになります。でも、読み物でも絵本でも、最近は「まずレイアウトして」という傾向が強くなっている気がして、「ヤバイ」と感じています。

 私が出版社に入社したころ(ワープロもなかった時代です)は、原稿はなるべく完全な形に仕上げて、ゲラの赤字は極力減らすようにというのが基本でした。ゲラでの直しが多くなると、それだけ費用がかさむし、誤植の可能性が高くなったからです。

 だから今も、初校で気づくべきと自分が思うところを見落とすと、すごく申し訳ない気がします。でも、DTPの達人がいる出版社は、そういうのはあんまり関係ないのかも。また、これまでの仕事で、原稿でも初校でも編集者がほとんど内容をチェックせず、再校になってから原稿吟味をしている気配を感じたこともありました。

 だから「説明をお願いします」と思うのです。

 その本を、どういう手順で作るつもりなのか、どんなスケジュールで、それぞれの段階でどんな作業をするつもりか、すべきか、説明してほしいのです。校閲がどこで入るのかだって大問題です。あるいは、校閲が入らないなら入らないと教えてほしいです。そうすれば、覚悟できます。

 初校がいつ、再校がいつだけでは、手順や心づもりがわからず、同じ用語でも内容が違っていることもあって、行き違いがあるたびに消耗します。それに、私がやりにくいときは、編集者さんもやりにくくて、困っているはずですよね。たとえば、途中で予定が違ってくること、調整することは、場合にもよりますが、私は基本オーケーです。明らかに先方の不手際で皺寄せが来ていると思われると腹が立ちますが、人間のやることにミスはつきものだし、お互いさまだし、仕方がないことは仕方がないので。それよりも、自分が思ってもみなかったことが、まるで当然のことのように途中で出てくるほうがストレスがあります。そのくらい、予想がつかないのです。

 要は、自分のキャパが限られているので、一番いいパフォーマンスが出せるように仕向けていきたいということなのだと思います。子育てを主にしていた20年間、1年365日、スケジュールが自分の一存で決められず、不慮の出来事に対応しながら時間をつくって仕事をしてきたから、よけいそんなふうに思うのかもしれません。人それぞれやり方があるので、そんなふうにぎちぎち考えないほうが気楽でいいという方もいらっしゃるのは承知しています。でも、同じようなことで悩んでいる翻訳者さんはいらっしゃらないのかなと思います。

 手順を説明してくださいと、私はできるだけ言うようにしているつもりですが、あたりまえすぎるのか、当然のことのようにささっと流されてしまうこともあります。今さら、説明することもないでしょう、というふうに。でも、面倒かもしれませんが、きちんと説明してもらえると、少なくとも私はとても助かります。だって、編集者お一人おひとり、ほんとうに違っているのです。互いの常識がかみあっていないことにそこで気づけば、すりあわせればいいわけですし。

 気づくと、自分より年下の編集者と仕事をすることが圧倒的に増えていて、こちらが何か言うとびびられることもあるようです。翻訳者は怖がられるようなエライ人ではないし、権威は無用で、先生でもないのですが。互いに敬意をはらいつつフラットな関係というのが、私は心地よいです。

 対面での打ち合わせが減っているので、「そういえば」などと言って、補足的な話をしにくいということもあるのでしょうね。

 愚痴っぽく思われたならすみません。何はともあれ、よりよい仕事ができるように今日もがんばります。

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